笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


「依美」


コンコン、と。


ドアのノックの音と共に、父親の声が全身に響いた。


起き上がって、ドアの隙間から地味に漏れる光に視線を動かす。


スリッパを履いた足の影が見えて、私は立ち上がった。


「何…?」


ドアに近寄りながら、そう問いかける。


スリッパの影はひとつしか見えなかったから、きっとドアの前には父親だけが立っているのだろう。

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