笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


「分かった」


パタン、とドアが音を立てて閉まる。


それに続いて父親が私の部屋の前を去っていく足音が聞こえ、それは徐々に消えていった。


父親が閉めたのか、私が閉めたのか、勝手に閉まったのか分からないドアを、私はただ見つめた。


「…ありがとう」


もう父親に聞こえるはずのない感謝を、もう一度呟く。


声に出すことで、ほんの少しは伝わると思うから。


伝わっているかなんて、自分では分からない。


相手にしか、分からないことではあるのだけど。


でもそれでも、感情は伝えられなくても、感謝は伝えたいから。
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