笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


「依美?」


その声は。


確かに、私の元に届いた。


父親でもない、母親でもない、その声は。


その呼び方で私を呼ぶ、もうひとつの声は。


「…――奏」


そっと、ドアを開けた。


開けて、しまった。


目の前に広がる、パステルの世界。


その中で微笑む、彼の姿。

< 131 / 463 >

この作品をシェア

pagetop