笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
笑顔で言われた、その言葉に。
今までの私の中にはなかった感情が、込み上げてきた気がした。
優等生を、やめる。
聞き慣れない響きと奏の笑顔の声が、耳元から離れない。
私は抱きしめられたまま、自分の手に触れる奏の手をただじっと見つめる。
大きくて優しい手。
奏に出会う前の私がこんなことをされていたら、すぐに振り払っていたはずなのに。
今の私では、振り払うどころか。
――その手に、自ら触れてしまいそうだ。