笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
「あら依美おかえり、すぐご飯にするからね」
買い物から帰ってきた母親が、開いたドアから私たちに笑顔で声をかける。
母親が両手に持っているバッグはこんもりと膨らんでいて、たくさんの食材が入っていることが分かる。
今日もきっと、私たちの好きな料理を作ってくれる。
その優しさが、目で見て分かって。
「…ただいま」
私はただそれだけ言って、母親を見つめていた。
――母親の顔を見るのがまだ少しだけ辛かった私は、“劣等生”になりきれていないのだと思った。