笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
「奏」
紛れもなく、奏だった。
片手で私を支えて、片手はポケットに入れたままの、奏。
片手で人の全体重を支えられるところに、私はまた奏が“男”だということを実感する。
「何ぼーっとしてんだよ」
奏は、そう言って笑って。
私の頭の上に一度、その手のひらを乗せた。
ポケットから伸びてきた、大きな手のひらに。
私を支える大きな手のひらに、気が付かされる。
――史上最強に、奏との距離が近いことを。