笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
でも。
「お前!沢野依梨!今日こそ課題やってきたんだろうな!」
「ぎゃーっ先生!依美、奏くん、またね!」
「おいこら、待て沢野!」
それはあまりにも一瞬の出来事で。
何があったのかは、数秒経ってからやっと理解することができた。
“沢野”、それは確かに私を呼んだ声だった。
だけど歩いてきた教師が声をかけたのは、もうひとりの“沢野”、つまり――りぃで。
それに気がついたりぃは、光の速さの如くその場を去っていった。