笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
じゃあ――誰の部屋だったのだろう。
私は何も言わず、ただ奏を見たままその話を聞く。
「彩菜ってやつの部屋だった、俺より2つ上の先輩だったんだけどな、俺は仲良くしてもらってて…それでここに紹介してもらったのがはじまりだった」
奏は私の瞳と、その木を交互に見ながら話す。
奏の口から、人の名前が出たのは、はじめてだったかもしれない。
“彩菜”。
先輩なのに“彩菜”と呼び捨てにしたことから、奏とは相当仲の良かった先輩なのだと理解することができる。
同時に――少しだけ、胸の奥がざわついた気がした。