笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


急に、訳の分からない感情に、襲われた。


何かを言おうとして、口を開いた。


でも、何を言えばいいか、分からなかった。


何を言いたいのか、分からなかった。


何かを言いたいのに、何も言えない。


その理由さえも分からない。


ただ、奏の名前を呼ぶことしかできなくて。


「依美、ありがとな」


奏は、笑顔で言う。


言われると嬉しいはずの“ありがとう”が、少し苦しかった。




その後、奏と一緒に食べたマドレーヌは、甘くて、苦くて、奏の笑顔の味がした。


< 246 / 463 >

この作品をシェア

pagetop