笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


いや、知っていたとしてもあの頃の俺は弱かったから。


きっと、彩菜を守るなんてことはできなかった。


優しくしてくれた彩菜に礼くらいは言いたかったけど、彩菜の連絡先は知らないし。


彩菜が俺に自分の体質について話さなかったのにも、きっと何かの理由があったのだろう。


あいつと俺がお互い“本当の幸せ”に気が付けるなら、それでいいと確信したはずだから。


そのときはじめて、俺は彩菜が“不思議体質”だったことに気がつき、その全てに深く納得したのだった。


そして同時に。


依美に出会ったことで――俺の人生が大きく変わる予感をしていた。


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