笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
「あ、俺は父さんがいねぇんだ、母さんも俺を嫌ってる」
――そう言って、笑った奏を見て。
いけないことを聞いてしまったのだと、後悔した。
「ごめん」
私はすぐに謝って、再びその視線を外す。
そして脳内で、奏の言葉を思い出した。
そうだったのか、知らなかった。
奏には父親がいなくて、母親は奏を嫌っていることなんて――。
これ以上聞くと、嫌な思いをさせてしまうだろうか。