笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
8 ◇ 自分
秋に近づいてきたからか、外はちょうど良いくらいに涼しくて、制服のシャツの上に着たカーディガンを優しい風が通り抜けていく。
「ここ、ボロいけど許してな」
奏の家に、到着した。
奏が笑って指差したのは小さなマンションだった。
私はそのマンションを見上げてから、首を横に振る。
「ううん」
奏の家までは学校から歩いて10分ほどだったから、歩いてきた距離はすごく短かったはず。
でも奏とこうやって学校の外を歩いたのは初めてで、それがとても短い距離だとは思えなかった。