笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
何だか異常に緊張したけど、それに気がつかれないように平然を装っていたのは、秘密にしておきたい。
「お邪魔します」
私はそう呟くと、奏が開けてくれたドアから、家の中に入る。
母親があまり帰ってこなくて、家事はほとんど奏が一人で行っているんだ、という奏の話を聞くと、家の中がそんなに綺麗ではないことを予想していたけど、その私の予想はまるっきり外れた。
「綺麗だね、家の中」
玄関からリビングルームへと案内された私は、視線をいろいろなところへ動かしながら、そう言った。
奏の家は、本当に綺麗だった。
マンションの外装は確かに古く感じたし、男子高校生がほぼ一人で生活している部屋なんて、綺麗なはずないなんて思っていたのに。