笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
「そうか?別に普通じゃね」
奏は笑って、キッチンへと歩いて行った。
リビングルームに残された私は、焦げ茶色のカラーがモダンなシャープなソファに、そっと腰掛ける。
テーブルの上にはテレビのリモコンと、飲みかけのコーヒーのようなものが入ったマグカップがひとつ。
マグカップの色は黒で、女の人のものらしくはなかったから、きっと奏の飲みかけのコーヒーだろう。
奏はいつも紅茶しか飲まないイメージがあったけど、家ではコーヒーも飲むんだな、と私はまたひとつ、奏のことを知った。
ソファに座って一番に目に入るのは、真正面に置かれたテレビと、その隣の本がたくさん入った棚。
本は綺麗に整頓されていて、ここからだと小説のような文庫本が多いように見える。