笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
奏は、どんな本を読むのだろう。
「依美、コーヒーでいいか?」
ソファに座ったまま、本棚に並んだ本を見つめていた私に、奏から声がかかる。
「ありがとう、奏、家ではコーヒーなんだね」
「まぁ、ずっと紅茶ばかりじゃ飽きるからな」
奏はそう言って笑顔で頷くと、またキッチンで作業を再開した。
――その後ろ姿が、いつもとは違った。
「ねぇ奏」
私は立ち上がって、奏の背中に近づく。