笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
「奏くんは笑うことしかできなくて、無理して笑っているんですっ…気が付いてあげてください!」
――大きな声を、出してしまった。
奏のことを少ししか知らない、この自分が。
はじめて会った奏の母親に、こんなことを言って。
全くの部外者が、大切なことに首を突っ込んで。
取り返しのつかないことを、してしまった。
そう気がついたのは、何秒かの沈黙が私を包んだときだった。
「何なのあんた、笑わせないで」
その声は、今までより1トーン低くなっていて。