笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
「っ嫌です」
私は、絶対に動かなかった。
「奏くんのことをちゃんと見てお話をしてくれるまで…っ私はここを動きません!」
「何…」
何度だって、私が伝える。
気が付いてもらえるまで、何度だって伝える。
こんなに大切だと思う彼、こんなに私を変えてくれた彼のこと。
守るんだ、それはきっと――“本当の幸せ”を見つけるために。
「腹立つっ…」
その瞬間、私は伸びてきた手に胸ぐらを掴まれて――
「母さん」
目を閉じた瞬間、奏の声がした。
あまりの、恐怖と、聞き慣れたその声に。