笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
9 ◇ 幸せ
「っ奏」
奏の母親が、そう言って。
奏を、抱きしめたとき。
苦しくて、優しくて、胸がギュウ、と音を立てた。
奏に視線さえ合わせないと言っていた、奏の母親が。
奏の名前を呼んで、抱きしめて。
きっと2人は、大切な何かに気がついた。
お互いにどこかですれ違っていた気持ちが、本音を言い合ったことによって、今ここで、小さく重なった。
嬉しかった。
私は自分のことのように、嬉しかった。
本当に、よかった。