笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


今は、その腕から離れたくなかった。


私は奏を呼ぶと、その腕に、抱きついた。


でも奏に抱きつく力さえも、私には残っていなくて。


弱々しい力でしか、抱きつけなかった。


それでも奏は、そんな私を抱きしめてくれた。


「依美、ありがとな」


奏の体温がゆっくりと伝わってきて、私はいつの間にか安心感を覚えていた。


「ごめんね勝手なこと言って、でも…全部、本音だった」

< 382 / 463 >

この作品をシェア

pagetop