笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


放課後の誰もいない教室も、掃除をすることも。


目に入る全てが懐かしく思えて、私はただその空間で静かに過ごしていた。


確かに懐かしいけど、あの頃とは景色が違って見える。


黒板の色も、教室の窓の大きさも、そこから見える空の色も。


なんだか明るく、そして大きくなったような気がして。


いや、変わったのは教室ではなくて、きっと私自身だ。


「依美」


その声と同時に、教室のドアから顔を出した彼。

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