笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


それは奏と同じ日々を過ごしてきた中で、私が一番実感したことだった。


奏と出会う前の私、そして私と出会う前の奏には、それができなかった。


一人、自分の心の中では“嬉しい”とか“悲しい”とかの感情を抱いていたとしても、それを相手に伝えること、その感情を相手と分かち合うことができなかった。


それは、本当に苦しいことだった。


周りが笑っているのに、自分は笑えない。


周りが泣いているのに、自分は泣けない。


生きているのに、生きている感覚がしないような、本当に苦しいことだった。


だから。


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