笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


母親はお弁当に、こういう遊び心を必ず取り入れる人だった。


“キャラ弁”と呼ばれる可愛らしいお弁当を作ってみたり、カラフルなピックを使ってお弁当を華やかにしてみたり。


それにも、私を笑顔にさせたいという願いが込められているのかもしれない。


――今のところ、その願いを叶えられる予定はないけど。


だけど母親の想いが、母親の願いが、痛いほど、伝わる。


いつも、私のことを考えてくれるから。


いつも、私のことを見ていてくれるから。


「…いただきます」


それだけ言って私は箸を持つと、静かに昼食を始めた。

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