笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


自分の教室を目指し、廊下を歩く。


長い廊下の途中で聞こえるのは、生徒たちの笑い声。


校庭から響く、ボールの音。


誰かのスマートフォンから鳴った聞き慣れた電子音、それをかき消すかのように重なるのは上靴が床をこする足音。


耳を澄ませば、たくさんの世界がそこには広がっている。


耳だけで感じられるたくさんの世界が、そこには存在している。


私だけを、残すように。


――フワッ


不意に、風が吹いた。

< 48 / 463 >

この作品をシェア

pagetop