笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
自分の教室を目指し、廊下を歩く。
長い廊下の途中で聞こえるのは、生徒たちの笑い声。
校庭から響く、ボールの音。
誰かのスマートフォンから鳴った聞き慣れた電子音、それをかき消すかのように重なるのは上靴が床をこする足音。
耳を澄ませば、たくさんの世界がそこには広がっている。
耳だけで感じられるたくさんの世界が、そこには存在している。
私だけを、残すように。
――フワッ
不意に、風が吹いた。