笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
その途端、その視線に急に我に返り、私は手に持ったままだったプリントの存在や昼休みが残り少ないという事実を思い出す。
昼休みの終わりを知らせるチャイムの音はまだ聞こえていないはずだが、まさかもう鳴り終わったのだろうか。
「あの、帰ります」
私の脳内にはすぐに“現実”が帰ってきた。
勢いよく、そして強く、“現実”が私を揺さぶる。
慌てるようにそれだけ言った私は、少年にそっと背を向けた。
私の視界には、今自分が入ってきたドアが姿を現して。
手を伸ばすと、その取っ手に触れた。
少し力を入れてドアを開こうとした、そのとき。
「サワノ、エミ」