笑顔を持たない少女と涙を持たない少年


きっと不思議で仕方ないこの空間に夢中で、落としたことにさえ気が付けなかったのだろう。


そのキーホルダーは、去年の誕生日。


ちょうど去年の今日、母親からもらったキーホルダーだった。


小さなクマがハート型の石を持っていて、そのハートの中にはローマ字で“Emi Sawano”、“7.7”と名前と誕生日が彫られている。


私には少し可愛すぎるデザインかもしれないと思いながらも、一度つけたそのキーホルダーをスマートフォンから外すことはできなかった。


心のどこかで、密かに気に入っていたのかもしれない。


そして私の名前を呼んだ少年は、きっとこの文字を読んで私の名前だと理解したのだろう。


「落としてましたね、すみませんでした」

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