笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
私はその少年に一歩近づき、そっと手を伸ばす。
そして手のひらで、キーホルダーを受け取った。
広げた私の手のひらの上を、少年の指先が、ほんの少しだけ触れる。
かすかに吹く風、甘い香り、優しい空間。
「いい名前じゃん、エミ」
その言葉と共に、歯を見せて笑う、少年。
この空間、この瞬間、このすべてに。
――感じたことのない、何かを。
自分で理解することができないような、感情を。
私は胸の奥で、感じた気がした。