笑顔を持たない少女と涙を持たない少年
その瞳は本当に優しくて、あたたかかった。
両親、そしてりぃ以外の人間に、こんな風に見つめられたことはきっと今までに一度もない。
そう、“見られた”ことはあった、たくさん。
だけど“見つめられた”ことは、きっと一度もないから。
だから、分からないことが多すぎる。
こんなときどういう対応をしていいのかも、どういう言葉を並べたらいいのかも、家族以外の人間にあたる――彼のことも。
私はカップに視線を落とすと、そっと口を開く。
「…あなたのことと、この場所のこと、全く知らないから、教えて欲しい」
できるだけ自然な言葉を選び、カップから上る湯気に身を任せて。
彼のもとへと、小さく届けた。
「それもそうだな、じゃあ自己紹介する」
そう言って笑った彼は机を挟んで私の前へ座り、カップに注いだ紅茶を一口飲むと、再び口を開いた。