こうして僕は、君に泳がされている
こうして私は、猫を拾う
私は昔から、捨て猫に見つめられると、そのまま放っておけない性分だ。
子どもの頃など、何度拾って帰っては、親に説教されたか分からない。
里親を探す間だけ飼うことを許された子猫たちに、すっかり情が湧いてしまって、別れ際は必ずと言っていいほど号泣した。
私、久木田遙(くきたはるか)は、クールそうな見た目に反して、情に厚い女なのだ。
その男は、中学の同級生だった。
今やすっかり全国に知られた彼の名は、稲地悠太(いなちゆうた)という。
幼少の頃から、天才スイマーだと騒がれていた彼は、いつも周りに人懐っこい笑顔を向けていて。明るく社交的な性格も手伝ってか、常に学校一の人気者だった。
『久木田さんのさ、僕に全く興味ありませんって顔が、好きなんだけど。』
だから、彼がある日唐突に私に好意を伝えてきたのを、私は当然のごとく、本気にはしなかった。特別に目立つ容姿をしているわけでもなく、落ち着いた性格で、交友関係も広くはない。自分で言うのも変だが、どこにでもいるような地味な女だ。
そのからかい半分のような告白を、「冗談はよして」と軽くあしらったのが良くなかったのか。
庶民の私が普通に生活していれば交わるはずのない殿上人のような存在の彼に、どういう訳かずっとつきまとわれて……いや、妙に懐かれている。
私が必死に勉強してようやく合格した高校も、彼はスポーツ推薦で軽々と合格を手にした。お陰で彼と同じ学校に通う期間が三年延び、一度も同じクラスにならなかったのに(私が普通進学コース、彼がスポーツ特進コースなので当たり前だ)何故か彼に親しげに名前で呼ばれるようになった。
大学生の頃など、今やすっかり珍しくなった女子大に進んだというのに、どういう訳か大学の最寄り駅でよく顔を合わせるようになる。どうやら、私が通うキャンパスのすぐ裏に、彼の大学のスポーツ施設があったらしい。彼は、ほぼ毎日そこで練習を積んでいたため、まじめに毎日大学に通っていた私と本当によく遭遇した。
そして、社会人になってからは、同じ会社に所属することになる。私が就職内定していた自動車メーカーと、偶然にも彼がプロ契約を結んだためだ。