君の声に溺れる
「あのー、えっと……」
「…………」
「き、奇遇だよね~!」
「…………」
「笠原くんも、何か買いに来たの?」
「…………」
「あ、そうだよね!何か買いに来たに決まってるよね!そうじゃなかったらコンビニに来ないか!あははは、はは……」
「…………」
完全なる一人相撲に打ちのめされた。
何だこれ、私誰と会話してんの?人形?笠原くんだよね?まさか笠原くんの形をした人形!?それか等身大パネルですか!?
ショックが大きかったせいか思考までもが壊滅的になってきた。
二人の間には未だ微妙な沈黙が続く。
この状況をどうしたものかと頭を悩ませていたら不意に、笠原くんの表情が少し変わった気がした。
「アイス……」
「え?」
「……アイス、買いに来た」
「……」
思わず「おっそ!」とツッコんでしまいそうになった。
いや、だっていくらなんでも会話のテンポがマイペースすぎるでしょ!?私と笠原くんの距離感ってたった数メートルくらいだよね!?
ツッコミ属性の血がスルーさせてはくれなかったが、そもそも笠原くんもこう見えて動揺しているのかもしれないじゃないか。
そう思い直して顔面に笑顔を張り付けた。
「そっか、アイスね!私もアイス買いにきたんだよねー!やっぱアイスは冬でも夏でも年中食べたいよね、うん」
「……うん」
独特な会話のテンポと沈黙に私の我慢もそろそろ限界を迎えそうだ。