君の声に溺れる
多少のダメージを負った自分の心を慰めるように言い訳をつらつらと並べ立ててみたけれど、そんな自分が何だかバカらしく思えてきた。
もうやめだ。笠原くんみたいな人種と私はどこまでも合わないんだと実感できた。諦めて大人しく日直の仕事に専念しよう。
机に落ちたシャーペンをもう一度しっかりと握り直して学級日誌と向き合った。
と、その時、微かに気配がした。笠原くんが息を吸う気配。
「相原さん……」
俯いたままの私の耳に届いた、低音ボイス。昨日はあまりよく聞くことのできなかったその声が、以外にもちょっとハスキーでこんなにも耳に残るものだったのだと今更気がついた。
思わず視線を上げると、笠原くんの瞳とぶつかった。
2人っきりの、放課後の教室。あまりにも条件の整いすぎた沈黙は昨日とはうってかわって私の心臓をこれでもかというほど刺激する。
「俺……好きだよ」
「ぅえ……!?」
さっきまでとは違う、心臓がドキンッと高鳴る音がして、思わず変な声が出た。笠原くんから目が離せない。
「……甘いもの、好きだよ」
「あまい、もの?」
言葉の意味が一瞬理解できなくて、聞き返した。
思考停止する脳内を無理やり動かして導きだされた答えはあまりにも恥ずかしすぎるものだった。
どうして一瞬でも忘れてしまったんだろう、笠原くんは会話のテンポがずれているんだと。
たとえ一瞬でもときめいてしまった自分がばかみたいで、八つ当たりをするようにちょっとだけ笠原くんを睨みつけた。
すると、笠原くんが唐突に頭を下げてきた。
「……昨日は、ごめん」
「え、え!?」
唐突すぎる謝罪に思わず席を立ってしまった。
昨日のことは私が謝るならまだしも笠原くんが謝る理由はないはずだけれど。