君の声に溺れる
「えっと、昨日コンビニにいたのって相原さんだよね……?」
「う、うん、そうだけど……」
「雰囲気が違ったから、一瞬別人かと思って……驚いた」
「へえ、驚いてたんだ……」
そう呟きながら思い浮かべたのは昨日の笠原くんの真顔。全然驚いてるようには見えなかったんですが。
「でも、声とか喋り方で、すぐにわかった」
「そっか」
「うん」
笠原くんはそう言ったきりまた黙り込んでしまった。
また流れ出す微妙な沈黙にさっきまでのドキドキ展開はなく、私は会話の種をどうにかして探した。
「か、笠原くんってさ、すごい無口だよね!」
「…………」
「いい声してるんだからもっと喋ればいいのに~……なんて、ね」
「………」
相変わらずの気まずい空気の中、笠原くんがそっと目を伏せたのがわかった。
「……喋るの、苦手なんだ」
「そう、なの?」
「……聞いている分には、全然いいんだけど。自分がいざ喋ろうと思ったら、間が空くっていうか……」
笠原くんの独特のテンポは、そういうことだったのか。
「複数だと会話に置いて行かれるから、基本相槌だけで済ませてることが多いよ」
「そっか……うん、でも私もたまにあるよ!ほら女子の会話ってテンポが命っていうか、ノリ遅れちゃうとよく置いてかれたりするんだよね!」
「相原さんも……?」
「うんうん!そんなのきっと誰にだってあるよ!」
「そっか」
ホッとしたように、少しだけ笠原くんの表情が柔らかくなった気がした。
さっきの無駄な勘違いのせいか、初めて見る笠原くんの笑顔に少しだけ胸がトクンと動いた気がした。
「ありがとう、相原さん」
嬉しそうにそんなことを言われたら悪い気はしなくて、だから私も素直にうんと頷いた。