今宵、君と月の中で。
はぁ、とため息が漏れる。


もうすぐ六限目の授業が終わるというのに、今日も誰ともまともに話せずにいた。


昨日と今日は、登校した時になんとか隣の席の堀田さんに挨拶をすることはできたけど、それ以外はまったく話す機会がなくて会話をするには程遠い。


唯一の救いは、彼女が挨拶を返してくれること。


今までのことがあるから仕方がないとは言え、私と関わろうとする人がいないに等しい状況の中、堀田さんは普通に反応してくれるのだ。


今日はほんの少しだけ笑ってくれて、緊張でいっぱいだった心がそっと解れた。


残念ながら会話には届かないレベルだけど、それでも彼女の態度には少なからず救われている。


私が知る限りでは、堀田さんは挨拶をするようになった私のことを誰かにおもしろおかしく話したりもしていないようで、隣の席が彼女のような人でホッとした。


だって、もし笑い者にでもされてしまったら、私はきっと今度こそ殻から出られなくなってしまう。


まだ完全に踏み出せてはいないけど、固く作り上げた殻にヒビを入れることくらいはできたはず。


だから、ようやくそこから出ようとしている自分自身がまた閉じこもってしまうことだけは、どうしても避けたいと思うようになっていた。

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