今宵、君と月の中で。
・「変わりたい」
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生憎の曇天だった七夕から三日目になる今日は日曜日で、朝からグズグズとした空が広がっていた。
「千帆、できたわよー」
「はーい」
キッチンで朝食の支度をしていた母の声でソファーから立ち上がると、足元にいたツキも付いて来た。
父は疲労が溜まっているのかまだ眠っているから、母とふたりでダイニングテーブルを囲む。
トーストとベーコンを添えたスクランブルエッグ、そしてサラダとオレンジジュースという充実したメニューを味わい、久しぶりに母とゆっくりと会話をした。
「そういえば、進路は決めたの?」
「……まだ。色々考えてるんだけど、やりたいことがわからなくて」
「だったら、今は悩むしかないでしょう。とりあえず大学には行きなさいよ」
「わかってる」
「お父さんとも話してたんだけど、やりたいことが決まらなくても大学で見つければいいんだから。志望校が決まらないなら、夏休み中に家から通える範囲の大学を見に行って来なさい」
「うん」
「必要なら早めに言ってくれれば付き合うわよ。それから、理系の大学がいいならお父さんに相談しなさい」
母はアイスコーヒーをひと口飲むと、「理系のことはよくわからないから」と苦笑した。