今宵、君と月の中で。
話し始めてから、一度もクロの顔をまともに見ることができていない。


彼がバカにして来るような人ではないとわかっているけど、どんな表情を向けられているのかを知るのが怖かった。


「典型的なパターン、だよね……」


自然と自嘲混じりの微笑が漏れ、眉間の皺がさらに深くなる。


あくまで“いじめ”という直接的な表現を避けたのは、とても抵抗があったから。


当時は、いじめられていることを両親や先生を始めとした周りの大人たちに知られるのは恥ずかしくて情けなくて、報復への恐怖心よりもその気持ちの方が大きかったと思う。


過去と上手く向き合えていないせいか、あの時に感じた気持ちは今も心の中にしっかりと残っていて、たとえ自分とは関係のないことだったとしても“いじめ”という三文字に対する拒絶反応は強い。


「目を付けられたのが中三の一学期の終わり頃のことで、親友だと思ってた子が離れていったのが夏休み中だった。二学期には学校に居場所がなくて、休む日が増えたの……」


暴力をふるわれたり、物を隠されたりすることはなくて、あの四人から悪口が飛び交い、クラスメイトからはひたすら無視をされるだけ。


それくらいで学校を休むなんて、心が弱かった証なのかもしれない。


だけど……。

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