今宵、君と月の中で。
なんてバカなのだろう。


“一ヶ月間会うだけ”のはずだった相手を好きになってしまうなんて。


今日を省けばあと八日しか会わないと決めているクロにそんな感情を持ったって、どうせ叶うわけがないのに……。


心の中では自分自身を嘲笑しながらも、出会ってからずっと真っ直ぐに向き合い続けてくれていた彼に惹かれていくのは必然だったのかもしれない、なんて考えてしまう私がいる。


思い返せば、クロの言動に鼓動が速くなったり、心が落ち着かなかったりしたことがあった。


もしも、それらがこの感情の種となり水となったのであれば、水を与えられた種が芽生えてしまうのは止められなかったことなのかもしれない。


「千帆?」


優しい声に導かれるように伏せていた視線を上げると、真っ直ぐに向けられていた瞳とぶつかって、彼が穏やかに微笑んだ。


「明日のこと、考えよう。せっかくもっと仲良くなれそうなんだから」


「……うん」


必死に平静を装って笑って見せたけど、気づいた本音が心を乱し、今はそんなことを考える余裕なんてない。


夜空を見上げて泣きなくなったのは、そこに浮かんでいる上弦の月が満ちるまでの時間が僅かだと知っているからで、その日を思って胸の奥が締めつけられた──。

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