今宵、君と月の中で。
「ちゃんと寝ろよ」


そう微笑んだクロが、私の頭をそっと撫でた。


無理するなよ、と言われているようで、彼の温もりと優しさに胸の奥がキュウッと苦しくなる。


嬉しいのに、悲しい。


嬉しいのに、苦しい。


相反する感情に挟まれているせいで口を開けば泣いてしまいそうで、いつからこんなにも弱くなってしまったのだろうと情けなさが芽生えた。


ひとりでいることに慣れていた時には、誰かのせいで心が振り回されることなんてなかったのに……。


「千帆は、ちょっと頑張り過ぎるところがあるから」


たったの一ヶ月足らずで人の温もりに慣れてしまったのか、こんな言葉にすら鼻の奥がツンと痛くなる。


これ以上弱くなりたくないのに、クロの言葉ひとつで今にも泣いてしまいそうになった私は、たぶん自分で思っているよりもずっと弱い。


それを認めるしかなくて、だけど認めてしまうとますます泣きたくなって、もうどうすればいいのかわからない。


「ほら、また思い詰めたような顔してる。話くらい聞いてあげるから、とりあえず顔を上げろ」


きっとひどい顔をしているはずだから見られたくなかったのに、彼は顔を上げようとしない私の両頬を突然掴んだかと思うと、そのまま強引に上を向かせた。

< 189 / 233 >

この作品をシェア

pagetop