今宵、君と月の中で。
私が聞きたいのは猫の話ではなく、クロのこと。


「でもある日、その夫婦の妻が亡くなり、それから数ヶ月もすると残された夫も後を追うようにして亡くなってしまった。ふたりとも老衰で苦しむことはなかったけど、ひとり残された猫はこれからの未来を案じて不安になった」


だけど、彼はその話を続けるつもりらしく、焦れたように眉を寄せた私に微笑み、再び口を開いた。


「それでも、猫は誰かが手を差し伸べてくれると信じて疑わなかった。だけど……」


よくわからない話を聞かされて心は焦れているのに、クロが寂しげな笑みを浮かべたせいで彼につられたように胸の奥が苦しくなる。


思わず手を伸ばしそうになったけど、行き場を見つけられないその手をギュッと握ることでごまかした。


「老夫婦のふたりの娘は、遺産で揉めた末に残された猫を邪魔者として扱った。遺産の足しにするために家も売り、血統のない猫は段ボールに入れられ、まるで処分する家具と同じだと言わんばかりに公園に捨てられた」


「え?」


耳を疑ったのは、“捨てられた”という単語の前に“公園に”とついていたから。


まさかそんなはずはない、と思うのに。


バカげている、と思うのに。


私は、頭に浮かんだ可能性を消せなかった。

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