今宵、君と月の中で。
・ツキという存在
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「ニャア」と鳴いたツキの声にハッとすると、窓の向こうの空はオレンジ色になっていた。
帰宅してすぐに始めたはずの数学の宿題は、あまり進んでいない。
嫌なことを思い出したせいで気分が悪くて、机に肘をついていた左手でこめかみの辺りをグシャッと掴む。
網戸にして扇風機を回しているだけの室内の空気はジメジメとしていて、体に纏わりつくその不快感にため息が漏れた。
そんな私の気持ちを察するように、ツキが足に体をすり寄せて来た。
薄茶色の毛はフワフワとしていて、少しだけくすぐったい。
蒸し暑さを感じているけど、ツキの体温はなんだか心地好かった。
「シャワー浴びようかな」
うちは夏場はシャワーだけで済ませるから、少し早いけどそれもいいかもしれない。
気分を変えるためにもそうすることに決めて立ち上がり、クローゼットの中にあるタンスから部屋着と下着を出した。
私が部屋を出ようとするとツキもそのあとを追うように歩き出し、階段を下りる私の後ろからピョンピョンと付いて来る。
普段のツキは部屋で待っていることの方が多いけど、私の気分が優れない時や元気がない時にはわかってしまうのか、こういう日は片時も離れようとはしないのだ。