今宵、君と月の中で。
“ツキ”という名前は、拾った日に決めた。


ツキを拾った時に公園で見た満月がとても綺麗だったことと、ツキとの出会いは夜空で輝く満月に導かれたような気がしたから。


獣医さんの話だともともとは飼い猫だったことは間違いないみたいだったから、新しい名前を与えても慣れてくれないかもしれないという不安はあったけど……。


それでも希望を込めて、ツキと過ごすようになって三日が過ぎた頃に初めて名前を呼び、それからは毎日必ず何度も名前を呼んで話し掛けた。


ツキがうちに来てから一ヶ月が経った頃、ツキは初めて自分で段ボール箱の外に出た。


それまではお風呂や体を拭くために私が無理に出すことしかなくて、そんな時にはいつも引っ掻かれたりしていたけど……。


この日の夜にご飯を与えようと準備をして部屋に行くと、私の姿を見たツキが段ボール箱の中からピョンと出てきたのだ。


この頃には少しずつ警戒心を見せることが減り始めてはいたけど、これにはさすがに驚いて言葉を失った。


だけど、程なくして自然と笑みが零れ、瞳にはうっすらと涙が浮かぶほど嬉しくなった。


そして、数え切れないほど呼び続けていた「ツキ」という名前に応えるようにツキが鳴いたのも、この時が初めてだった。

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