今宵、君と月の中で。
・不機嫌な十七歳
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梅雨を迎えた六月中旬、窓の向こうでは小雨が降り、校庭の土はいつもよりも色濃くなっていた。
控えめな雨音をBGMにした金曜日の教室に響くのは、クラスメイトの朗読の声。
教科書に載っている作品にはあまり興味が湧かなくて、過去の文豪たちがしたためた文章はただの文字の羅列にしか思えない。
読書は好きな方だけど、好んで読むのは現代の作家たちが書くものばかり。
だから、教科書に仕方なく目を滑らせているだけの授業は特におもしろくはないし、この先の展開が気になることもない。
そんな私だけど、昔から優秀だったらしい両親のDNAのお陰なのか成績はいい方で、そのうえ幼い頃から勉強することを習慣づけてくれた両親に感謝している。
「じゃあ、次は松浦(まつうら)。続きから読んで」
「はい」
頬杖をついて教科書を見ていた私、松浦千帆(ちほ)は国語の先生に指名され、今まで朗読していたクラスメイトと交代で席を立った。
四限目の終了を告げるチャイムまで、後五分。
私が五行分を読み終えたら、先生が綺麗な字で板書をして、午前中の授業は終わるのだろう。
今日の昼休みはできるだけ早く昼食を済ませて、一限目の数学の時間に出された宿題を片付けよう。