今宵、君と月の中で。
「そ、それは……」


言い訳でも文句でもいいのに、こんな時に限ってなにも浮かばなくて、言葉に詰まった。


すると、黙って私のことを見ていたクロが、ふっと微笑を零した。


「千帆だって本当は今のままじゃダメだと思ってるから、答えられないんだろ?」


「……っ」


「別に、友達をたくさん作れって言ってるわけじゃない。でも、このまま人と関わらないなら、どのみち社会に出た時に苦労すると思うけど」


彼の口から出るのは正論ばかりで、相変わらず返す言葉を見つけられない。


さっさと突っ撥ねて帰ればいいだけなのに、まるでクロの真っ直ぐな瞳に心を縛られているかのように足が動かなかった。


「千帆は、変わりたいと思わない?」


そんな私に、彼は真剣な表情を向けた。


先のことを考えるのがとても怖くて、いつもチラチラと顔を覗かせるそれを気にしないように努めていたのに……。


クロが現実を突きつけるから、このままじゃいけないのだと改めて感じさせられてしまう。


ここで立ち上がって足を踏み出せば、今はこれ以上嫌な気持ちになることはない。


だけど……。


それで解決するのは“今抱いている不安な気持ち”だけで、いつかまた同じ壁にぶつかることは目に見えていた。

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