ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
「シゲのだよ。バカうまいよこいつ、聞いたことないの? シゲ、なんか弾いてやれば」

「弾けるの?」

「結衣が歌うなら、弾くよ」


結衣の歌?

面白そうだなと思って、気づかれないようにスマホで動画撮影を準備する。




シゲがギターを取って結衣の隣に座りなおした。さりげなく位置を変えて、二人の表情までわかるようなポジションから狙う。盗撮とか、多分できるかも、俺。



何を歌うか打ち合わせることもなく、少し音を合わせるとすぐ結衣が歌い始めた。聞きおぼえがあるけど古い曲だ。春ちゃん先生の趣味?


口ずさむように静かな、心地いい声。


歌の内容が恋愛なのか友情なのかわからないって言われてるバンドだよな、これ。こいつららしいな。





一曲歌い終わると、二人とも満足したようだった。いつから始めたの、小学生、うそ聞いたことない、聞かれたことないし、と楽しそうに話している。


いつもあった微妙な距離が縮まってる。



俺がいるの忘れてるよね、君たち。お互い惚れてるくせに、何やってんの中学生かとバカにしてたけど、違うんだよなぁ。


シゲが結衣をやたらに大事にしてるんだ。時間かけて結衣に信頼されようとしてる。


多分これが、元々のこいつらの距離感。


< 112 / 207 >

この作品をシェア

pagetop