ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
何を言ったかな、私、あの電話で。でもまだ何もばれてないんだから、純の彼のこととか変なことは言ってないんだよね?
「俺はそんなんじゃないんだろ。わけわかんないんだよ、お前。俺にどうしろっていうんだよ」
純を好きだなんて思われること言った? 彼女にまたなってあげるとか言ったかな。そのせいで?
思い出そうとしてるうちに、柵をつかんだシゲがふっと顔を近づけてきた。
痛い方の肩の近くをつかまれて一瞬ビクッと目をつぶったら、唇に柔らかいものが押しつけられる感触があった。
目を開けたときにはもう、離れていた。
今のって。
思考が停止する。
「俺とキスしたって、あいつに言える?」
言えないだろ、あいつを好きなんだろって、言わなくても声が聞こえた気がした。
何か考える前に、涙がこぼれた。
シゲが、私にキスした。純を好きだって言わせるためだけのキスを。
「それが答えだろ」
シゲがわかった風に投げやりに言う。
今泣いちゃいけないってわかっていたけど、うまく止められなかった。シゲが思ってるのとは全然別の意味だけど、一度流れ出した涙は、声もなく静かに流れ続けた。
柵にもたれてうつむいて泣く私に寄り添うようにして、シゲはずっと隣にいた。でもだんだん持て余して来たようで「ごめん。そんなに泣かすつもりじゃなかった」と謝ってくれて、ますます泣かずにいられなかった。
キスなんてしたことないけど。好きな人にするキスは、ああいう感じじゃないことぐらいはわかる。冷たい声の、投げやりなキスだった。