ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
広いのにがらんとしていて人の気配は薄く、唯一机で作業をしていた女の人と目が合った。
「あれ、もしかして尚人の?」
立ち上がりながら聞かれて驚いたけれど、さっきの二人から聞いてるのかな。
「尚人ー」
奥に向かって言いながら、私の方にさっと近寄って来た。
「きゃー、やばい、かわいい。私、綾。よろしくね?」
二十代後半かと思われるお姉さんなのに、ハイテンションで挨拶される。
「重野結衣子です。おじゃまします」
なんなんだろう、会社って普通こういう感じじゃないと思うけど。
奥からふらりと尚人くんが顔を出した。朝のジャージ姿ではなく、作業着だ。
「もう来たんだ。暑いのにお疲れさま」
「これ、修理代と、あとよかったら皆さんで。大福です。親戚のお店のですけど、美味しいです」
ぽち袋は尚人くんに、お菓子の箱は綾さんの方に渡した。
「ありがとう! じゃあお茶にしようね」
そういうつもりじゃなかったのだけれど、私もお茶に誘われたみたい。
「自転車で来た?中に入れてこ」
以前盗難があったから外には置かないようにしてるんだと言われて、軽くなった自転車を引いて工場内に入れさせてもらう。
いや、工場じゃないのかなこれは。
置いてあった深い紺色の自転車の隣に停めた。細かい星が散っているみたいに見える。珍しい。
「きれい。夜空みたい」と褒めると、「塗ったんだ」と尚人くんは得意げだ。「尚人くんの?」と一応聞いてみたら、「友達の」とすごく嬉しそうに言った。
やたら自転車を大事にしていた奴いたよね、とまたシゲを思い出した。
さっき名前聞いたからかな。夢にも見たし、今日はなんだか変。