ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?

そのまま仕事内容を教えてもらうと、面白そうな会社だった。


イラストやウェブ、チラシなどの仕事を受注しつつ、フリーの人たちと協力して商品企画なんかもやっているんだという。


奥には作業場もあり、アトリエ的に使われているらしい。


広いから色々と便利なのかもしれないし、汚しても平気そうだ。アーティストっぽい人たちの集まりみたいと考えると、なんとなく納得。普通のオフィスビルより自由に使えそうな感じがする。



うん、そういえば美術室的雰囲気がする。なんとなく居心地がいい。


そう言うと「美術部なの?」と尚人くんが嬉しそうな顔をした。仲間的な感じがするんだろうか。


平井さんは「美術系なんだ、バイトしない?」と誘ってくれたけど、美大とかでなくて文学部の美術史専攻なんだと話してみた。


「歴史を学ぶのはいいけれど、それが目的化したらダメだよ、過去から学び何をするかが大事だから」と先生みたいなことを平井さんは真面目に言う。


「また始まった。結衣ちゃんびっくりしてるからね。暑苦しいから、いきなり」と綾さんが平井さんをたしなめている。


「でも、美術部の先生にも言われました。過去に埋もれて今を見失わないでって」


そう。大学が決まって連絡したら春ちゃんがそう言った。


勉強のことなのか他のことを言ってるのか、いつも通りの優しい声からは読み取れなくて、ただ心に残った。


「いい先生だね」と平井さんが満足げに同意して、綾さんに眉毛を上げて見せた。





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