ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?

懐かしいことを思い出していたその時に端のドアが開いて、「ただいま」とワイシャツ姿の若い男の人が現れた。


「暑くて死にそう、この格好」


言うなり、ネクタイを外してワイシャツのボタンもはずし始めた。


「おい、お客さんいるんだぞ」


平井さんに言われて「あ、すいません」と呟いて顔を上げる。


「着替えてきます」


よく見えないようで目を細めて言った後、奥のほうへ消えていった。


その後ろ姿を、私は声も出せずに見つめた。


潰れた工場。静岡弁の男の子。働いているワイシャツ姿。


つながった。



シゲが、帰ってきてる。





ここで働いてるんだ。もしかしておじいさんの工場なのかもしれない。そういえば小学校までは隣の区に住んでたと聞いた覚えがある。


忙しく頭を働かせながら、はっと気づく。


私、ここにいたらダメだ!


「あの、私、そろそろ帰ります」


立ち上がりながら慌てて言った。


シゲはまだ私に気づいてない。


わからないけど、きっと会いたくなんかないはず。私だって今更こんな形で会うつもりなかった。


「ごちそうさまでした」


適当にお辞儀をしてママチャリに駆け寄る。


鍵をつけっぱなしだった自転車を急いで押して、尚人くんが開けてくれたドアから外に出た。

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