ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
もう薄暗くなってきた駐車場でまだ慌てながら自転車に跨がろうとした時、「シゲ知ってるの?」と低く声をかけられた。
尚人くんが後ろから一緒に出てきていた。
「中学の同級生」
必要最低限の情報を伝える。
「なんで逃げるの」
「会いたくないと思う」
「いや、会いたがってると思うから、行こう?」
ハンドルを握る手首を掴まれた。小首を傾げて話しかけるその仕草と話し方がいちいちかわいくて、この人嫌だと思う。
ペースを乱される。春ちゃんを思い出す。
「尚人くんてシゲの友達? 静岡の高校の?」
「そう。だもんでシゲ会いたがってると思うよ。美術部でしょ」
もう一度断言されて、手首を掴まれたまま、自転車からひきはがされて意外と強引に連れ戻された。
美術部だったらなに? 部活の仲間はみんな仲良しとか、そういう勘違い?
ちょうど、奥からメガネを掛けたシゲが戻ってくるところだった。
私を見て、固まる。
歩いている途中の、いかにも中途半端な位置で。
ぎくっと音がしそうに、驚いて。
その瞬間、猛烈な怒りがこみ上げてきた。
誰にも言わずに突然転校したことも、私ともそのまま縁を切ったことも、とっくに諦めていたつもりだったのに。
目の前のシゲが思った以上に驚いたのを見た瞬間、ギアが切り替わった。