ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
帰ろう。もういいや。やっぱり最初から声なんかかけなければよかったんだ。
小さくため息をついて、でもちゃんと声を出す。
「帰るね。おじゃましました」
他の人たちにもあいさつして行こうとしたら、慌てた声が追いかけてきた。
「ちょ、待て。結衣!」
無言で見る。なによ。今更なんでしょ。
「ごめん」
苦いものでも噛んだような顔でシゲが言った。はじめてちゃんと目が合った。
「悪かった。急にいなくなって、全然連絡しなくて。ごめん」
「ほかにも誰かに会った?」
「いや、誰にも。使う駅も路線も違うし。今更気まずいっていうか、連絡先も覚えてないし」
「じゃあ、1つ頼みを聞いてくれたら、許してもいいよ」
とっさに思いついて、言ってみた。別に許すも許さないもないけど、シゲが帰ってきたならまず会わせないといけない人がいる。
「何?」
「明日、ちょっと夜付き合って」
「わかった」
ごちゃごちゃ言わずに従うことにしたらしい。変わってないね。変に潔いんだ、シゲは。