ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
中学の美術室は、俺にとってのシェルターだった。特に、春ちゃんが新卒で美術教師として赴任した中二の時からは。


別にいじめられてたとか、居場所がどこにもないとかってわけじゃなかったけれど、俺がいた狭い世界の中で、一番落ち着くのがあの場所だった。



春ちゃんがいて、結衣がいて、他にも何人か部員がいることもある放課後の美術室。


美術教師のくせにアコースティックギターを弾いては歌っている春ちゃんに文句を言いながら、結衣は結局よく一緒に歌っていた。


口ずさむような力みのない歌い方のくせに、やけによく伸びる声で。


窓の下を通ってグラウンドに出ていく運動部員たちが、よく立ち止まって聞き入っていたことを、あいつはきっと知らない。


「顔も結構かわいいよな」

「でもしゃべると怖いってほんとかよ、シゲ」


俺とよく一緒にいるからって、周りの奴らに聞かれたりもした。


ほんとだよ。怒ると怖いし物は投げるし、凶暴だよ。


それにあいつは春ちゃんのことしか見てないから、お前らなんか出る幕ないよ。



最後のセリフは飲み込んだけど。




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