ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?

ガキの頃も、静岡に住んでたことがある。


じいちゃんの会社の裏にある家に親父と住んだり、静岡の叔父のところに母さんと住んだり、引越しは多いほうだった。


一時期落ち着いてたけど、中学の半ばぐらいからまたやたらと揉めている。俺がケンカを止めようとすれば、両方から子供は黙ってろと言われるし。だったらほかでやってくれよ。


どうにかしたいけど、俺にできることなんかなくてイライラする。


転校、何度目だっけな。東京に残りたい、っていうのは無理だろうな。


早く大人になりたい。せめて住むところは自分で決められるぐらいの。





それからも二人で帰ることはよくあったけど、結衣は俺から話さない限り、何も聞いてこなかった。


一度ちょっと心配そうに「大丈夫?」って聞かれたことがあったけど、「何が?」って言ったらそのまま黙った。


普段は気が強いくせに、押しが弱い。だから女子の嫌がらせとかに合うんじゃないの。


俺がいなくなっても、大丈夫かなこいつ。


一瞬考えてから、ばかばかしさに気づく。結衣が俺を頼ってきたことなんかないな、今までだって。




女子の中に入ると、よくしゃべる方の結衣だけが出てくるのは知ってる。


時々、捕まえてそこから連れ出してやりたくなる。やったことなんかないけど。




逃げ出したくなれば、結衣は自分から美術室に行く。春ちゃんのそばで、あまりしゃべらず嬉しそうにしてる。


それで下手くそな絵を描きながら鼻歌を歌ってるんだ。いつも隣で描いてる俺にしか聞こえないくらいの小さな声で。

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